|
2 鈴木先生の軽妙洒脱な語り口や昔の風景、歌に、会場は笑いと郷愁にあふれ、この講演会そのものが回想法という趣でした。講演を終えられたばかりの鈴木先生に島根保険医協会の記者がインタビューしました。 回想法についてインタビュー まず回想法とは何か、その方法、目的についてお聞かせ下さい。
回想法の基になったのは、1960年代、米国の精神科医ロバート・バトラーが唱えたライフレビューという考え方です。一見、うしろ向きととらえられる、過去を振り返る行為を、前向きにとらえた点で画期的です。私は麻酔科ですが、緩和ケアの経験からモルヒネで身体の痛みはとれても、心の痛みまでは薬でとれないものです。そこで自分を否定的に考えがちな患者さんや高齢者に自らの人生を回想してもらう中で、徐々に「自分なりに頑張ってきた一「自分なりにいい人生だった」という自己肯定感を抱くように導くことが、回想法の日的です。思い出を語る、思い出に磨きをかけ輝きを取り戻すことには、自己を再評価し、自尊心を高める効果があります。 ”最近は物質万能の考え方への反省からか、「心の時代」などと言われます。回想法を必要とするのは、高齢者や病む人ばかりではないのでは。 世の中、すでに、大回想時代。に入っているのではないでしょうか、NHKの「ラジオ深夜便」を聴かれましたか。言うまでもなくラジオは一方通行のメディアですが、この番組のアナウンサーは名アンカー 独りの回想は、後悔になりがちです。堂々巡りで悔しさが増すことになりかねません。相手と思い出を共有したり、楽しかった思い出や懐かしい情景に表情も緩む。語る中で自慢話に発展することもあります。そうしたやりとりを通じて高齢者や病んだ人は、自己肯定感を回復すると思われます。 聴き手に求められることは何でしょう。 家族が回想のお手伝いをすると、「もう何度も聴いた。耳にタコができた」「それは思い違いだ」などと言いがちです。つまり家族は回想を事実として聴き、思い違いがあれば指摘するという評価・解釈的な態度になりがちです。 ところが第三者は、その話の真偽などは問題にせず、物語として聴くことに専念できます。新鮮な気持ちで聴き、興味、関心を持ち続ける、回想の世界にすっと入って行き、自分の価値観で話を判断しない、「あなたの話を聴いていますよしとサインを送り続け、想像力を膨らませながら聴き手自身も楽しむ。一言で言えば、聴き上手に徹することが大切で、回想の援助者には高い能力が必要とされる所以です。「千夜一夜物語」と言えば、大半の人は語り手としてのシェーラサード姫を連想するでしょう。しかし、あの長い長い物語を語らせた、王の聴き手としての能力こそ、賞賛に値するものではないでしょうか。 回想を促すポイントはどんなことでしょうか。 故郷、華と修行の時代、そして今です。まずその人の「故郷」。これは饅頭、温泉、神社仏閣などがキーワードだと考えます。次は「修行の時代」です。辛かったけれど、誇りに思える華の時代でもあるでしょうそして「今」、これらをきちんと聴くことが大切です。援助者からこういうことを間われると、「この人は自分のことを理解しようとしている」と思うでしょう。高齢の方が、自分の歩んできた人生の道のり、誇りにしていることを語るようになれば、回想法は成功したと言えるでしょう。
国民が同じような暮らし向きだった昭和20年代、30年代の写真が語りの糸口になります。その頃の写真は時代の最大公約数の手活を写しており、回想の誘い水です。そこから話が深まれば、その人自身の写真を使って回想を発展させます。歌は、例えば話の中で紹介した「誰か故郷を思わざる一古賀政男・作曲、霧島昇・唄」は「花摘む野辺に日は落ちてみんなで肩をくみながら唄をうたった帰りみち」ですね。内容は子供の歌ですが、大人のための歌です。こうした歌も回想の誘い水です。
お年寄りや患者さんがどこで生まれ、どのような人生を歩んで来られたのか、そうした人生の断片を伺うことは、医療、介護の現場では大変意味のあることです。若い職員がお年寄りの話を聞くことによって、一人ひとりの高齢者に尊厳を感じ、敬意を持ち、共感するようになります。そうした敬意、共感は、援助者の仕事の意欲や充実感、楽しさ、そして何よりケアの内容に反映してきます。そうなると、例えば「財布がなくなったしなどという認知症の周辺症状を理解しようとする態度が生まれます。それが症状を和らげる結果にもつながります。それから自戒を込めて言えば、医師はとかく患者をみると肺や心臓、胃などの臓器にばかり目が行ってしまい、その人の歩んできた人生の道のりはあまり、みていないのではないでしようか。回想法の視点が今、医療、介護の現場に求められています。診療録にも故郷、華の時代、誇りの記載もお試しいただけたらと思います。 |
トップページへもどる